【参考】   金融機関負担と国民負担の境界

後に扱う「国民負担」(国庫支出額)と「金融機関負担」(保険料)の参考として、金融機関負担 と国民負担の境界について、予め整理する。

ペイオフコスト内部分の資金援助は、常に金融機関負担(一般保険料)。過去、一般保険料で不足した分は、今後の保険料で賄われる。

ペイオフコスト超部分の資金援助については、以下のように負担者が推移しており、金融機関負担と国民負担の境界も変化した。


ペイオフコスト超部分の負担
  金融機関負担 国民負担
①定額保護下 制度的な負担なし。破綻金融機関の親密金融機関、業界団体、地公体等が負担(“外部支援”)
②全額保護下 特別保険料 交付国債
③解禁後 A 負担金 (例外)政府補助
B なし なし

A=金融危機対応措置の場合
B=それ以外の場合

① 昭和46年から平成8年(定額保護下)


預金保険制度が創設された昭和46年以降、平成8年(6月)まで、預金保険は定額保護。昭和61年に資金援助方式が導入され、実際に資金援助が実施された平成4年以降も、実施された資金援助はペイオフコスト内に限られていた。

この間、破綻した金融機関の預金者は、実際には預金等を全額保護された。これは、破綻金融機関と関係の深かった金融機関、業界団体、地公体等が、“外部支援”としてペイオフコスト超分を負担したことによるもの。


② 平成8年から13年度末まで(全額保護下)


平成7・8年に金融機関破綻が増加。預金保険の収支が赤字化(7年度)し、欠損金が発生した(8年度)。平成8年には、預金保険法が改正され(6月)、預金等の全額保護特例措置が実施された(当初12年度末までの時限措置。その後延長され13年度末までとなった)。

ペイオフコスト超部分の資金援助にあてるため、金融機関が納付する「特別保険料」が導入され、国から「交付国債」が交付された。ペイオフコスト超部分の資金援助に際しては、まず「特別保険料」が使用され、不足する分については「交付国債」が都度償還された。「特別保険料」の納付累計約1.2兆円は金融機関負担、「交付国債」の償還額累計約10.4兆円は国民負担となった。

「特別保険料」の水準(政令で定められる)は、一般保険料と合わせた保険料全体で、我が国金融機関の国際競争力への悪影響、金融機関の財務状況等を勘案して定められた。これが国民負担との境界となった(因みに、特別保険料が13年度限りで廃止された後も、保険料の実効料率は0.084%のままで18年度まで維持されている)。


③ 14年度以降(ペイオフ一部解禁、解禁拡大)


(A) 金融危機対応措置の場合


平成12年の預金保険法改正で、13年度以降の恒久的な枠組みが規定された。この下では、内閣総理大臣を議長とする金融危機対応会議の議を経て認定された金融危機対応措置(二号・三号措置)の場合に、ペイオフコスト超の資金援助が発生し得る。

ペイオフコスト超部分の費用は、金融機関が事後的に納付する「負担金」で賄われる。但し、政府は、「負担金のみで危機対応業務の費用を賄うとしたならば、金融機関の財務の状況を著しく悪化させ、我が国の信用秩序の維持に極めて重大な支障が生じるおそれがあると認められるときに限り」、予算で定める金額の範囲内において、費用の一部を補助することができる。政府が行うこの認定が、金融機関負担と国民負担との境界となる。

因みに、これまで「負担金」の納付も政府補助も行われていない。


(B) 金融危機対応措置以外の場合


14年度から16年度は、当座預金・普通預金・別段預金(「特定預金」と総称)の全額保護が継続された。15年度以降は決済債務が全額保護されている。ペイオフ解禁が実施された17年度以降は、(「特定預金」に代り)「決済用預金」が全額保護されることとなった。これらの保護分は、ペイオフコストに含まれる。

一般預金等は、ペイオフコスト超の部分(1預金者あたり元本1千万円までとその利息等)は預金保険の保護対象外となった。

保護対象外の部分は、破綻金融機関の財産の状況に応じて支払われる(一部カットされることがある)21。すなわち、保護対象外の部分の扱いは、民事再生法の手続に従い、裁判所の関与の下、破綻金融機関の財産の処分・回収等の状況に応じて公平・公正に決められる。一部カットされる場合は当該預金者の負担となり、金融機関負担や国民負担は発生しない(当該破綻金融機関への預金者としての国民は除く)22

なお、14年度以降、金融機関破綻は1件のみ(金融危機対応の三号措置適用の足利銀行)。

 


21  預金者の利便のための概算払や相殺については、「まんがでみる預金保険制度」(預金保険機構ホームページにも掲載)などを参照。

22  本稿では、「金融機関負担」(保険料)と「国民負担」(国庫支出額)とを対比した。

もっとも、預金保険料は、直接的には金融機関が納付・負担するが、最終的には預金者、借り手、株主等も負担すると考えられる。

このため、上記を、「預金者としての国民の負担」と「納税者としての国民の負担」との観点からも捉えていく必要があると思われる。

 

(図表1)  機構の勘定の推移

 

(図表2)  勘定に関連する主な立法措置、資本増強等
■=立法措置等 ★ =主な資本増強 ▲ =特別公的管理、特別危機管理 (参考)主な金融機関破綻等
昭和46
■預金保険法制定 ・預金保険機構設立。政府・日銀・民間金融機関が「一般勘定」(当時は勘定名なし)に1.5億円ずつ計4.5億円を出資。当初は保険金支払(ペイオフ)方式のみ(現在まで1件も発動されず)。保険金支払限度額は元本100万円まで(昭和49年に元本300万円までに引上げ)。法目的は「預金者等の保護」と「信用秩序の維持」。
昭和61
■預金保険法改正 ・資金援助方式を導入(対受け皿金融機関等)。保険金支払限度額を元本1千万円までに引上げ。労働金庫が0.05億円出資し、「一般勘定」(同)の出資金は4.55億円に。
東京協和・安全信組 (6年)
コスモ信組 兵庫銀行 木津信組 (7年)
平成6・7
平成8
(1996)

■住専法制定(6月)    (←■“住専国会”第136回国会=常会、1月22日〜6月19日)

・「住専勘定」を設置(政府が50億円を出資)。同勘定内に、緊急金融安定化基金(国庫から補助金6,800億円)・金融安定化拠出基金(民間金融機関等からの拠出金1兆70億円)を設置。

■預金保険法改正(6月)

・12年度末までの時限措置として、預金等の全額保護の特例措置を実施=ペイオフ凍結(その後、平成13年度末まで1年間延長された)。ペイオフコスト超の資金援助(特別資金援助)を新設。
預金等の全額保護のため、特別保険料を導入。預金等全額保護の特例業務を経理する勘定として、特別勘定(「一般金融機関」・「信用協同組合」の2区分)を設置し、特別保険料を受入れ。
一般保険料も引上げられ、保険料は7倍に(一般保険料0.012% → 一般保険料0.048%+特別保険料0.036%=0.084%)。特別保険料も12年度までの時限措置(その後、13年度まで延長)。

太平洋銀行  
阪和銀行
平成9
(1997)

・三洋証券の破綻の際、同証券に対するコールローンが戦後初のデフォルト(焦げ付き)。コール市場等のインターバンク市場の取引が激減。

・大蔵大臣・日本銀行総裁談話『金融システムの安定性確保について』で「預金等の全額を保護するとともに、インターバンク取引等の安全を確保すること」等につき決意表明(11月26日)。

三洋証券  北海道拓殖銀行
山一證券  徳陽シティ銀行
平成10
(1998)

■預金保険法改正・金融安定化法制定(2月)  

・預金保険法改正により、預金保険機構の財源・機能を強化。特別勘定の区分を廃止し「特例業務勘定」を設置(同勘定は当初は13年度末廃止予定。その後、1年間延長され、14年度末に廃止。資産・負債は「一般勘定」に承継)。

・金融安定化法は、公的資金による金融機関等への自己資本増強制度を導入した。「金融危機管理勘定」を設置。

・両法に基づき、“公的資金枠”を初めて設置。総額30兆円(政府保証枠20兆円、交付国債10兆円)とされた。
──「特例業務勘定」に17兆円(政府保証枠10兆円、特例業務基金に交付国債7兆円)。「金融危機管理勘定」に13兆円(政府保証枠10兆円、交付国債3兆円)。

・預金保険機構債券の発行を可能化(預金保険法改正)。

★金融安定化法に基づき、金融危機管理審査委員会(佐々波委員会)の審査を経て、21行(都銀全9行と長信銀全3行を含む)に対し1兆8,156億円の資本増強実施を決定・実施(3月)。

■早期是正措置の運用開始(4月)

■金融再生法制定(金融安定化法廃止)・早期健全化法制定(10月)   (←■“金融国会”第143回国会=臨時会、7月30日〜10月16日)

・金融再生法は、金融整理管財人・承継銀行制度、特別公的管理(一時国有化)、金融機関の資産買取り等を定めた。「金融再生勘定」を設置。金融再生法の附則で金融安定化法を廃止。「金融危機管理勘定」廃止に伴い、同勘定の公的資金枠13兆円(政府保証枠10兆円、交付国債3兆円)は廃止され、交付国債3兆円は国に返還。同勘定の資産・負債は「金融再生勘定」に承継された。

・早期健全化法は、金融機関等の資本増強等を定めた。12年度末までの時限措置(その後、信金・信組は13年度末まで延長された)。「早期健全化勘定」を設置。

・公的資金枠を総額60兆円に増枠(注1)(政府保証枠53兆円、交付国債7兆円)。「金融再生勘定」に18兆円、「金融機能強化勘定」に25兆円の計43兆円の政府保証枠を新たに設置。

▲金融再生法に基づき、日本長期信用銀行、日本債券信用銀行が、特別公的管理銀行に(一時国有化)。

みどり銀行

福徳銀行・なにわ銀行

 

▲日本長期信用銀行
(金融再生法の特別公的管理 = 一時国有化)

▲日本債券信用銀行
(金融再生法の特別公的管理= 一時国有化)

平成11

★早期健全化法に基づき、金融再生委員会による承認を経て、東京三菱を除く大手15行へ7兆4,592億円の資本増強を実施(その後も実施。期限の13年度末までに総額8兆6,053億円を実施)。

幸福   東京相和   なみはや  新潟中央
平成12
(2000)

■預金保険法改正

・預金等の全額保護の特例措置(ペイオフ凍結)を、1年間延長(12年度末まで→13年度末まで)。当座・普通・別段預金は14年度末まで全額保護。

・13年度以降の恒久的な破綻処理の枠組みを規定。金融整理管財人・承継銀行制度を恒久化。「金融危機への対応」を創設し、金融危機対応措置として、102条の「第一号措置」(資本増強)・「第二号措置」(ペイオフコスト超の資金援助)・「第三号措置」(特別危機管理)を定めた。「危機対応勘定」を法定。「特例業務勘定」(特例業務基金)の交付国債を7兆円から13兆円へ増額。

信用組合関西興銀
朝銀東京信用組合
石川銀行(13年)
平成14
(2002)

・ペイオフ凍結の部分解除(4月1日)。当座・普通・別段預金を除き、原則に戻った。定期性預金等は定額保護(1金融機関ごとに預金者1人あたり元本1千万円までとその利息等)に。

■預金保険法改正    当座・普通・別段預金の全額保護の2年延長(16年度末まで)。17年度以降の決済用預金(注2)の全額保護(恒久措置)。法目的に「破綻金融機関に係る資金決済の確保」を追加。

■組織再編法制定(翌15年に同法に基づき「経営基盤強化勘定」を設置)。

相互信金  中部銀行
平成15
(2003)

・決済債務の全額保護。決済債務とは金融機関が行う資金決済に係る取引に関し金融機関が負担する債務。

■株式会社産業再生機構法制定 「産業再生勘定」を設置(預金保険機構の産業再生機構に対する出資業務を経理する勘定)。

★預金保険法に基づく危機対応業務として、りそな銀行に対し、102条1項の第一号措置(資本増強)として1兆9,600億円を増強。(なお、その際に「危機対応勘定」を実際に設置)。

▲預金保険法に基づく危機対応業務として、足利銀行に対し、102条1項の第三号措置(特別危機管理)を実施(一時国有化)。「一般勘定」で株式を取得(対価0円)。

▲足利銀行(預保法の特別危機
     管理=一時国有化)
平成16
(2004)

■金融機能強化法制定

・金融機能強化法は、金融機関等の資本増強等により「地域における経済の活性化」を期する目的。

・「金融機能強化勘定」を設置。同勘定に、平成16年度末に廃止された「経営基盤強化勘定」の資産・負債(関東つくば銀行関連)を承継。

  
平成17

・ペイオフ凍結の解除(4月1日)。決済用預金は全額保護(恒久措置)。それ以外の預金等は定額保護(1金融機関ごとに預金者1人あたり元本1千万円までとその利息等)に。

  

(注1)  公的資金枠は、12年度に、最大の70兆円(政府保証枠57兆円、交付国債13兆円)。現時点(18年度)では50.15兆円(政府保証枠のみ)。
(注2)  決済用預金とは、①無利息、②要求払、③決済サービス提供、の3要件を満たす預金。

(図表3) 各勘定の主な内容、財源、国民負担、金融機関負担、国庫納付


単位:億円
財源、国民負担(国庫支出)・金融機関負担 国庫納付 17年度末
剰余金/
欠損金(▲)

・ペイオフコスト内の金銭贈与を、「一般保険料」(運用益を含む)で実施した。不足分は政府保証付きの借入で調達(後に大部分を政府保証付きの債券発行に切替え)。不足分がほぼそのまま欠損金となっており、欠損金は今後の「保険料」で賄われる。

金融機関負担(一般保険料)。

・剰余金の国庫納付の規定なし。

・特例業務勘定から一般勘定が承継した資産等につき、簿価超回収等があった場合には国庫納付する(附則21条2項)。

▲24,549

・ペイオフコスト超分の金銭贈与につき、まず「特別保険料」をあて、不足分は「交付国債」を償還(現金化)した。

金融機関負担(特別保険料)と国民負担(交付国債)。

〔特例業務勘定の資産・負債は14年度末に一般勘定に承継〕

・政府保証付きの借入・債券発行で調達した資金で業務を行う。

・金融機関が事後的に納付する「負担金」で賄われる(123条)。

・政府は、負担金のみで費用を賄うとしたならば、金融機関の財務の状況を著しく悪化させ、我が国の信用秩序維持に極めて重大な支障が生ずるおそれがあると認められるときに限り、予算で定める金額の範囲内において、費用の一部を補助することができる(125条1項)。この認定は政府が行う。

金融機関負担(負担金)。上記の例外に限り国民負担(政府補助)。

・剰余金の国庫納付の規定なし。

・政府補助を受けた事業年度後、利益金があるときは、政府補助受領額を限度に国庫納付を義務付けられている(125条2項)。ただし、これまで政府補助は行われていない。

144

恒久勘定は、金融機関負担(一般保険料、負担金)。上記の例外に限り、国民負担(政府補助)が可能。

【3勘定共通】

・保険料収入はなく、政府保証付きの借入・債券発行で調達した資金で業務を実施している。

・勘定の廃止の際、欠損がある場合に関する法規定はない(金融機関に負担を求め得る規定もない)。

 

<参考> 勘定を廃止した際に欠損がある場合に関する国会質問への答弁

【再生勘定】

・平成12年4月14日衆議院大蔵委員会:「損失が出ておりましたときは予算措置を講じなければならない、こういう制度でございます」(大野功統大蔵政務次官。対西田猛議員)。

・平成12年4月28日参議院金融問題及び経済活性化に関する特別委員会:「欠損が生じている場合には適切な予算措置が講じられるものになる、こういう制度でございます」(林芳正大蔵政務次官。対益田洋介議員)。

 

【金融機能強化勘定】

・平成16年5月28日参議院本会議:「最終的に必ずしも損失が発生するとは考えておりませんが、万が一損失が発生した場合には、必要に応じて予算措置を含めて対応することとしており、他の金融機関に負担を求めることはかえって金融機能の低下を招きかねないことから適当でないと考えております」(小泉内閣総理大臣。対池田幹幸議員)。




【3勘定共通】

・勘定の廃止の際、残余があるときは、国庫に納付しなければならないとの法規定がある。







▲6,846





3,455
3
 

預金保険機構は、金融機関からの拠出を受け、株式会社産業再生機構に出資。産業再生機構の解散の後、預金保険機構は残余財産の分配を受け、金融機関に対して拠出額に応じて分配する。

産業再生機構は、株主への分配額を除く残余財産を直接国庫納付する。

▲0.1

一次損失は、国民負担(国庫補助金6,800億円を使用)。

二次損失は、金融機関負担・国民負担。

勘定の廃止の際、残余があるときは、国庫に納付しなければならない。

▲2,873
(注)

本稿では「国民負担」を「国庫支出額」(実際に支出された額)と定義。その結果、借入や債券発行に対する政府保証それ自体は国民負担ではない。但し、政府保証は、預金保険機構の各勘定ごとの資金調達を可能化・円滑化し、業務の遂行を可能化・円滑化している。また、各勘定の調達コスト低減を通じて各勘定の財務改善に寄与するなど、非常に大きな役割を果たしている。