平成 14年 12月 20日
預金保険機構
整理回収機構
1. はじめに
11月29日に発表された「金融再生プログラム作業工程表」において、「特別支援」を受けた金融機関からの不良債権買取りに関して「年内に時価についての考え方を整理。」とされた。
そこで、預金保険機構・整理回収機構として、「時価」についての考え方を以下の通り整理する。
2. 不良債権の「時価」についての考え方
金融機能の再生のための緊急措置に関する法律(以下、「金融再生法」と表記)第56条によると、預金保険機構が金融機関等の資産を買取る場合(預金保険機構の委託により整理回収機構が最終的に契約者となる)の価格は「時価によるもの」とされている。
時価については、昨年秋の金融再生法改正時の国会で「一般的に、その時点におけるその物が売買される実際の価格」との答弁が改正法案提案者によってなされている(注)。
そこで、改正金融再生法の下での買取価格については、①時価での買い取りという再生法の規定、②改正金融再生法の提案者の時価についての上記の考え方を踏まえるべきものと考えられる。
(注)時価についての一般的な考え方
①有斐閣法律用語辞典
「その時点において一般にその物が取引されている実際の価格と考えられる価格」
②平成 11年 1月 22日企業会計審議会「金融商品に係る会計基準」
「時価とは公正な評価額をいい、市場において形成されている取引価格、気配又は指標その他の相場(以下,「市場価格」という。)に基づく価格をいう。市場価格がない場合には合理的に算定された価格を公正な評価額とする。」
3. 金融再生法第53条買取りに際しての買取価格の算定
金融再生法第53条に基づく不良債権の買取りに際して、預金保険機構・整理回収機構は、別添の通り、不良債権のキャッシュフローないしは担保物件評価額をベースに個々の債権の特性を勘案しながら買取価格を算定している。なお、このような買取価格の算定は、証券会社、投資ファンド、民間サービサー等民間の買い手と同様な手法、考え方に基づくものであると考えられる。
買取価格の算定及び決定に当たっては、預金保険機構(理事長)が諮問機関である買取価格審査会に諮問したうえで定め(同法第55条等)、内閣総理大臣の承認を得て買取を実施している。
4. 預金保険機構・整理回収機構における不良債権買取価格の妥当性
不良債権買取価格が「時価」として妥当なものか否かは、他の買い手との競争の中で、買手方の呈示価格が売り手金融機関によって選択されているかが重要な判断材料となると考えられる。
まず入札方式による不良債権買取価格を見ると、預金保険機構・整理回収機構は、改正金融再生法施行後の1月から 9月までに入札に参加した16金融機関49プールのうち9金融機関13プールについて落札しており、落札プール数を入札参加プール数で除した落札率は2割7分となっている。不良債権入札における民間サービサーの落札率は、得意分野の入札に特化した民間サービサーにおいても2割程度といわれており、分野を問わず殆ど全ての入札に参加している預金保険機構・整理回収機構がこのような民間サービサー並みの落札率を確保しているという事実は、預金保険機構・整理回収機構の買取価格が売り手金融機関からみて妥当な水準であること、すなわち時価として適正であることを示しているものと考えられる。
他方、相対での取引においても、価格算定方法は入札の場合と同じであり、また売り手金融機関にとっては預金保険機構・整理回収機構の呈示価格次第では、他のサービサーに売却先を変更することもできるにもかかわらず、金融再生法改正前(11年4月~13年12月)に比べて改正後 (14年1月~9月)では相対での買取のペースが大幅に加速している。このことも預金保険機構・整理回収機構による買取価格が時価として適正であることを示しているものと考えられる。
5. 金融機関の自己査定と時価買取りとの関係
金融機関の自己査定による査定額と預金保険機構・整理回収機構による買取価格の算定を比較してみると、主として次のような違いがある。
(1)担保評価について
金融庁の検査マニュアルにおいては、担保不動産の評価について必ずしも不動産鑑定士による鑑定評価を義務付けるものではなく、公示地価、相続税路線価などの利用も認められているほか、直近の不動産鑑定士による鑑定価格についてはそのまま処分可能見込額と取り扱ってよいこととなっている。
これに対して、預金保険機構・整理回収機構による時価算定の際には、一定基準以下の案件について金融機関の評価額、それ以外は不動産鑑定士の鑑定評価額をもとに、実際に処分できる価格を適正に算出するため物件の特性及び早期売却要請等に応じて、金融機関の評価額あるいは鑑定評価額に掛け目 (原則1~0.7程度)をかけて算出している。
(2)キャッシュフローの評価について
金融庁の検査マニュアルにおいては、担保でカバーされていない債権については、過去の貸倒実績率又は倒産確率をもとに算出した将来の予想損失率等を用いて引当金を計上することとなっているため、破綻懸念先の場合、一般的に引当率が60%~70%程度にとどまっており(換言すれば今後回収できる確率は30%~40%程度はある、と見込んでいるものと解される。)、いわば中長期的な業績回復の可能性も視野に入れた引当となっているものと考える。
これに対して、預金保険機構・整理回収機構においては、早期に処分できる価格を算定するとの観点から、債務者の現在の財務状況を前提として、DCFにより時価を算定している。すなわち、返済が見込める場合には、その返済が継続する期間を推計し、直近の返済額に当該推計期間を乗じて、かつリスクを勘案して当該推計期間の返済額を算出し、それを割引率を用いて現在価値を算出して時価としている。
この際、再生可能と考えられる場合は、比較的長期のキャッシュフローを見込むことが可能であるが、一方、再生計画においては、債務免除等が行われる場合が多い。原則として担保処分により回収する案件においても、法的整理による配当や任意弁済等によるキャッシュフローの実績があれば必ずそれを勘案するようにしているが、高い返済率を見込むことは困難である。
このような事情のもと現在、預金保険機構・整理回収機構による不良債権の時価算定に当たり、金融機関の自己査定については、部分的な利用 (注)にとどまっている。
(注) 預金保険機構・整理回収機構による不良債権の時価の算定に当たり、不動産担保付の一定基準以下の案件については、費用との関係もあり、担保不動産の評価について不動産鑑定士による鑑定評価の代わりに、金融機関の自己査定に基づいた評価額に掛け目をかけて債権の時価を算定している。
6. 売手金融機関からの情報提供の重要性について
前記3.で述べたとおり、預金保険機構・整理回収機構は、キャッシュフローや担保物件の評価額をベースに個々の債権の特性を勘案しながら債権の買取価格を算定しているものであるが、かかる評価の前提となる,債務者や担保物件に関する様々な有用情報について、売手金融機関から提供される関係資料等がいかに充実し信頼度の高いものとなっているかにより、預金保険機構・整理回収機構がそれを価格(時価)算定においてきめ細かくかつ的確に反映できるかが異なってくる場合も多い。
仮に同じ条件であっても、関係資料等に基づく情報量が少なければ、その分買い手においてリスクを折り込まざるを得ず、結果として買取価格を下げざるを得ないのが一般である。
したがって、より一層きめ細かい、的確な価格(時価)算定を行うためには,売手金融機関においても、売却の持込みに際し、充実した関係資料等に基づく十分な情報提供を行って頂くことが望ましいと考える。
なお、この点に関し、例えば、売手金融機関において自己査定の前提となった当該債務者や担保物件に関する、充実したかつ信頼度の高い情報が預金保険機構・整理回収機構に提供される場合は、それを、可能な範囲で、より一層的確な価格(時価)算定を行うための一つの参考情報として活用することが可能となるのではないかと考えられる。
以上
問合せ先
預金保険機構 金融再生部
TEL 03-3212-6179
整理回収機構 広報室
TEL 03-5203-4965
(別添)
金融再生法第53条買取りにおける買取価格の算定方法
1. 再生候補案件
⇒今後予想されるキャッシュフローを割引現在価値に割り戻して買取価格を算定。
<具体的な算定方法>
① | 当該債務者に今後起りうるシナリオ(例えば、××年後に法的整理に入る等)及びそのシナリオの発生確率を想定する。 |
② | 各シナリオごとに、今後予想されるキャッシュフローの割引現在価値を算定(注)する。 |
(注)割引率は個々の事案ごとにより異なる。 |
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③ | 各シナリオごとの割引現在価値を各シナリオごとの発生確率により加重平均して時価を算定する。 |
2. 原則として担保処分により回収する案件
⇒不動産鑑定評価額等を基にそれぞれの物件の特性を勘案して買取価格を算定。
<具体的な算定方法(不動産担保の場合)>
① | 不動産鑑定士に鑑定評価 (正常価格)を依頼(注)する。 |
(注)一定の基準以下の案件については持込金融機関の評価額を利用。 |
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② | ①で求めた物件の評価額に物件の特性に応じて掛け目(原則1~0.7程度)を付す。 |
③ | 掛け目をかけた後の評価額から、(ア)追加的費用(必要ある場合)、 (イ)先順位債権、(ウ)回収費用を控除(入札の場合は買取費用も併せて控除)した残額を買取価格とする。 |
④ | このほか、返済等による回収が見込まれる場合には、回収費用控除後のキャッシュフローを現在価値に割り戻した金額を上記③に加算した金額を買取価格とする。 |
3. その他
無担保・無剰余で回収見込みゼロの債務者については備忘価格として原則 1,000円を付す。
以上