特定回収困難債権の買取りに係るガイドライン

平成26年7月2日
預金保険機構

本ガイドラインは、預金保険法(昭和46年法律第34号。以下、「法」という。)第101条の2第1項に定める「特定回収困難債権」の買取りを行うに際し、当該事務をより円滑に行うため、その範囲に係る具体的な運用に際しての考え方及び買取手続を定めるものである。

Ⅰ 買取対象債権

1 基本的な考え方

(1) 目的

「特定回収困難債権」の買取制度導入の目的は、法第101条の2第1項に規定のとおり「金融機関の財務内容の健全性の確保を通じて信用秩序の維持に資するため」である。

(2) 買取対象となり得る債権

買取対象となり得る債権については、同条第1項において、金融機関が保有する貸付債権又はこれに類する資産として内閣府令・財務省令で定める資産とされている。

「金融機関が保有する貸付債権」については、例えば、償却済みの貸付債権や、保証会社等が金融機関に代位弁済をした貸付債権を当該金融機関が買い戻した場合の当該貸付債権も、「金融機関が保有する貸付債権」として買取対象となり得る。

また、「金融機関が保有する…これ(貸付債権)に類する資産」については、預金保険法施行規則第29条の2において、「手形に係る債権、債券に係る債権、金融機関と債務者との取引契約の違約金又は当該取引契約を実行するための手数料に係る債権その他の当該取引契約に基づく債権」と規定されている。

例えば、金融機関本体を債権者とするクレジットカード債権(カードショッピング債権)、ファクタリングに係る債権等の買入金銭債権及び支払承諾による求償債権も、当該債権が当該金融機関と債務者たる顧客との取引契約に基づき生じたものであれば、「金融機関と債務者との…取引契約に基づく債権」に該当し、「金融機関が保有する…これ(貸付債権)に類する資産」として買取対象となり得る。

(3) 回収困難性

特定回収困難債権については、(2)の債権のうち「金融機関が回収のために通常行うべき必要な措置をとることが困難となるおそれがある特段の事情があるもの」と定義されている。

ここにいう「回収のために通常行うべき必要な措置」は、競売などの担保処分や資産の差し押さえに限られず、債務者又は保証人への督促行為等も含まれる。

また、「金融機関が回収のために通常行うべき必要な措置をとることが困難となるおそれがある特段の事情」(以下「回収困難性」という。)については、その具体的な事例として以下の2つの類型が例示されている。

第1の類型は債務者等の属性に着目するもの(属性要件)であり、「当該貸付債権の債務者又は保証人が暴力団員であって当該貸付債権に係る契約が遵守されないおそれがあること」と例示されている。第2の類型は債務者の行為に着目するもの(行為要件)で、「当該貸付債権に係る担保不動産につきその競売への参加を妨害する要因となる行為が行われることが見込まれること」と例示されている。

以下、上記の類型に従って、具体的にどのような債権が金融機関に回収困難性があるものとして特定回収困難債権に該当するかの考え方を明らかにする。

2 属性要件

属性要件は、債務者又は保証人が当該要件に該当すれば、その事実をもって特定回収困難債権に該当すると考えられる要件である。すなわち、債務者が例えば暴力団員である場合は、当該事実そのものが金融機関に回収困難性があると考えられることから、特定回収困難債権として買い取ることができるとするものである。

属性要件に該当する者の要件及びその考え方等については以下のとおりである。

(1) 要件

暴力団
暴力団員
暴力団員でなくなった時から5年を経過しない者
暴力団準構成員
暴力団関係企業
総会屋等、社会運動等標ぼうゴロ又は特殊知能暴力集団等
暴力団員等(①~⑥に掲げる者をいう。以下同じ。)と次に掲げる関係を有する者
  暴力団員等が経営を支配していると認められる関係を有すること
  暴力団員等が経営に実質的に関与していると認められる関係を有すること
  自己、自社若しくは第三者の不正の利益を図る目的又は第三者に損害を加える目的をもってするなど、不当に暴力団員等を利用していると認められる関係を有すること
  暴力団員等に対して資金等を提供し、又は便宜を供与するなどの関与をしていると認められる関係を有すること
  役員又は経営に実質的に関与している者が暴力団員等と社会的に非難されるべき関係を有すること
その他上記①~⑥に準ずる者

(2) 考え方

上記(1)の要件にかかる各々の考え方は以下のとおりである。

「暴力団」とは、その団体の構成員(その団体の構成団体の構成員を含む。)が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそれがある団体をいう。

「暴力団員」とは、暴力団の構成員をいう。

「暴力団準構成員」とは、暴力団又は暴力団員の一定の統制の下にあって、暴力団の威力を背景に暴力的不法行為等を行うおそれがある者、又は暴力団若しくは暴力団員に対し資金、武器等の供給を行うなど暴力団の維持若しくは運営に協力する者のうち暴力団員以外の者をいう。

「暴力団関係企業」とは、暴力団員が実質的にその経営に関与している企業、準構成員若しくは元暴力団員が実質的に経営する企業であって暴力団に資金提供を行うなど暴力団の維持若しくは運営に積極的に協力し、若しくは関与するもの又は業務の遂行等において積極的に暴力団を利用し暴力団の維持若しくは運営に協力している企業をいう。
なお、「暴力団員が実質的にその経営に関与している企業」とは、暴力団員が商業登記簿上の役員や株主・出資者である企業だけでなく、顧問・相談役等として企業の経営に影響を与えている場合や、人的関係・融資関係・資本関係・取引関係等を通じて事業活動に相当程度の影響力を有する企業をいう。

「総会屋等」とは、総会屋、会社ゴロ等企業等を対象に不正な利益を求めて暴力的不法行為等を行うおそれがあり、市民生活の安全に脅威を与える者をいう。
「社会運動等標ぼうゴロ」とは、社会運動若しくは政治活動を仮装し、又は標ぼうして、不正な利益を求めて暴力的不法行為等を行うおそれがあり、市民生活の安全に脅威を与える者をいう。
「特殊知能暴力集団等」とは、暴力団との関係を背景に、その威力を用い、又は暴力団と資金的なつながりを有し、構造的な不正の中核となっている集団又は個人をいう。

「暴力団員等が経営を支配していると認められる関係を有すること」には、暴力団員等が役員や株主となることを通じて経営を支配している場合などが該当する。

「暴力団員等が経営に実質的に関与していると認められる関係を有すること」には、経営を支配しているとまでの強い支配力が及んでいない場合であっても、暴力団員等が取引先の選定や取引内容・条件、会社人事などに介入している場合などが該当する。

「自己、自社若しくは第三者の不正の利益を図る目的又は第三者に損害を加える目的をもってするなど、不当に暴力団員等を利用していると認められる関係を有すること」には、暴力団員等を使って、あるいは暴力団員等との関係をほのめかすことにより、圧力をかけ、自己等が不正の利益を得る又は第三者に損害を与える場合などが該当する。

「暴力団員等に対して資金等を提供し、又は便宜を供与するなどの関与をしていると認められる関係を有すること」には、暴力団員等に対して現金を実際に交付するほか、暴力団員等が謝絶されるような取引を暴力団員等が行えるように便宜を図る場合などが該当する。

「役員又は経営に実質的に関与している者が暴力団員等と社会的に非難されるべき関係を有すること」には、役員等が、相手方が暴力団員等であることを知りながら、暴力団員等が主催する行事等に参加したりする場合などが該当する。

「その他上記①~⑥に準ずる者」とは、2(1)①~⑥には直接当てはまらないが、暴力団等との関係などに着目し、その言動等からみて実質的に同一とみなすことができる者をいう。

3 行為要件

行為要件は、競売妨害や暴力等の回収妨害行為等を捉えて特定回収困難債権に該当するか否かを判断するもので、行為主体の属性は問わない。例えば、正常な競売を妨害する目的で担保物件を不法に占拠する行為や、金融機関や金融機関職員に対する暴力・脅迫行為、営業妨害行為などは、一般的にはこれらの行為により金融機関に回収困難性があると考えられることから、行為要件に該当すると考えられる。

行為要件の行為者は、債務者又は保証人に限らず、その委託を受けた者等を含む。また、暴行・脅迫等の場合は、その対象が金融機関職員である場合のみならず、その親族等が対象となった場合を含む。

行為要件に該当する行為の要件及びその考え方等については以下のとおりである。

(1) 要件

暴力的な要求行為
法的な責任を超えた不当な要求行為
取引に関して、脅迫的な言動をし、又は暴力を用いる行為
風説を流布し、偽計を用い又は威力を用いて貸出先の信用を毀損し、又は貸出先の業務を妨害する行為
その他上記①~④に準ずる行為

(2) 考え方

上記(1)の要件にかかる各々の考え方は以下のとおりである。

「暴力的な要求行為」とは、要求内容の如何を問わず、要求手段に着眼し、当該手段そのものが回収困難性を生じさせるものをいう。具体的には、犯罪行為である傷害・暴行・脅迫・強要・業務妨害行為等が該当するほか、これに至らない脅迫的な行為等であっても、それによって金融機関が職員の安全確保等の観点から回収のために通常行うべき必要な措置をとることが困難となる場合には、本要件に該当する。

「法的な責任を超えた不当な要求行為」は、要求内容に着眼するもので、いわゆる「過大要求」に該当するものをいう。具体的には、当該金融機関で発生した些細な業務上のミスや個人情報の漏洩事件などに乗じた債務・利息の減免要求、債務返済のリスケジュールの要求等がこれに当たる。

「取引に関して、脅迫的な言動をし、又は暴力を用いる行為」は、要求行為を伴わなくとも、取引に関する脅迫的な言動や暴力など、当該行為そのものが回収困難性を生じさせるものをいう。
「脅迫的な言動」は、犯罪としての脅迫行為に限られず、脅迫罪を構成するに至らない金融機関等に対する脅迫的な言動も含まれる。また、相手の生命・身体・財産などに対する危害の内容を具体的に言及した場合のみならず、これらに具体的に言及していない脅迫的言辞を弄した場合も含まれる。
「暴力を用いる行為」には、相手に直接暴力をふるう行為のほか、物を投げ付ける(相手を狙ったものに限らない)、壁を蹴るといったような、相手の心神に影響を与える行為も該当する。

「風説を流布し、偽計を用い又は威力を用いて貸出先の信用を毀損し、又は貸出先の業務を妨害する行為」における「風説を流布し、」とは、具体的には、インターネット上に当該金融機関に関する根拠のない誹謗中傷を書き込むケースや、取引先などに同様の書類を送付するなどの行為をいう。
「偽計を用い又は威力を用いて貸出先の信用を毀損し、又は貸出先の業務を妨害する行為」とは、具体的には、大音響のマイクを駆使して当該金融機関へ誹謗中傷を繰り返す街宣行為や、窓口で大騒ぎをすることにより窓口業務を滞らせるなどの行為をいう。

その他上記①~④に準ずる行為」とは、前に掲げる定義には直接当てはまらないが、当該行為により、金融機関が回収のために通常行うべき必要な措置をとることが困難となるおそれを生じさせる行為をいう。例えば、競売を妨害する目的で担保物件を不法に占拠するなどの「担保不動産につきその競売への参加を阻害する要因となる行為」は、これに該当する。

Ⅱ 買取手続

特定回収困難債権の買取りに際しては、手続の適正性を確保するため、当該債権の該当性及び価格について第三者により構成される買取審査委員会の意見を聴くこととし、以下の手続により行うこととする。

 

特定回収困難債権買取手続の流れ

特定回収困難債権買取手続の流れの図 詳細な情報については、以下にお問合せください。 預金保険機構 総務部 広報・情報管理室 電話:03-3212-6140
(注1) 買取実施までのスケジュールについては、仮申込みの受付状況等を勘案し、適時に設定する。
(注2) 特定回収困難債権の該当性及び買取価格を審議するとの観点から、弁護士及び不動産鑑定士等を含む第三者で構成。
(注3) 債務者から特定回収困難債権の該当性について異議の申出があれば、買取審査委員会で再検討し、申出が認められた場合、買取契約を解除する。

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