【挨拶】「金融セーフティネットの展望と将来像:金融危機後のあり方」

【挨拶】
「金融セーフティネットの展望と将来像:金融危機後のあり方」


国際預金保険協会(IADI)国際コンファレンスにおける開会挨拶の邦訳
預金保険機構    理事長代理    田邉昌徳
2010年10月27日

-原文(英語)は英語版「Opening Speech at 2010 IADI Annual Conference」をご覧ください。

(はじめに)

和田政務官、吉田政務官、西村副総裁、行天理事長、グルンバーグ会長、国際預金保険協会(IADI)の会員諸氏並びにご来賓の皆様、おはようございます。

各国・地域の預金保険機関、その他のセーフティネット機関、規制・金融当局、学者の方々をお招きして、2010年のIADI国際コンファレンスを開催できることを大変喜ばしく思います。

預金保険機構を代表して、皆様を心より歓迎致します。

現在、預金保険当局は大きな課題に直面しております。最近の金融危機を経て、預金保険制度は、単に破綻金融機関の預金者を保護するものとしてだけではなく、金融システム全体の安定を図るものとして、その重要性がより広く認識されるようになっているからです。こうした中で、IADIは、各国・地域の預金保険機関の間での情報交換や専門知識の共有を促すとともに、規制当局や中央銀行と活発な対話を行うことを通じて、そうした課題達成に向けて重要な貢献をしてきました。IADI会員諸氏の努力と、IADIを率いるグルンバーグ会長のリーダーシップに、敬意を表したいと思います。


(金融システムの安定と預金保険制度)

折角の機会ですので、私からは、金融システム全体の安定を促進する観点――換言すればマクロ・プルーデンスの観点――から、預金保険制度の役割について何点か述べたいと思います。


第一に、金融システムの安定を確保するためには、金融規制、セントラルバンキング、預金保険を始めとするセーフティネットの3つの機能の相互関係を認識することが必要です。効果的で効率的な金融安定化策を推進する――換言すればマクロ・プルーデンス政策の対応手段を整備する――ためには、これら3つの機能の最適な組み合わせが一体として追求されるべきです。また、それぞれの機能を担う諸機関の間での連携・協調、情報の共有も必要です。

適切に設計されたセーフティネットは、金融システムの安定をもたらすだけではなく、規制やセントラルバンキングが担う負担を減らし、ひいては金融機関の活動の自由度拡大をもたらします。こうしたことを通じて、金融セクターの活力維持につながっていくことが期待されます。

もちろん、これら3つの機能の間での役割分担は、時代とともに変わっていくべきものです。例えば、今では預金保険はTier1、2、3の先のTier4とでも言うべき機能、つまり金融機関の破綻時にも預金や取引を保護するというコンティンジェントな機能を有しています。また、預金保険当局は場合によってさらなる機能、すなわち市場で個々のコンティンジェント・キャピタルが持っているような機能を有していることもあります。実際、わが国の預金保険機構はシステミック・リスクに対して「最後の投資家」機能(investor of last resort)とでも言うべきものを備えています。

この関連で特に注目されるのが、システミックに重要な金融機関(SIFIs)がもたらすリスクへの政策対応を巡る国際的議論です。そこでは、自己資本の追加賦課(capital surcharge)、Cocos(Contingent Convertible Bonds)などのコンティンジェント・キャピタル、bail-in債務といった様々な選択肢が議論されています。我々預金保険当局は、環境変化に対応していくために、こうした議論の動向にも幅広く目配りをしていくべきだと思います。


第二に、金融商品もそれを取扱う担い手も以前に比べ多様化してきています。金融商品は伝統的な預金から複雑な金融派生商品、市場性商品へと広がっています。担い手も、銀行、証券、保険、国内外の各種ファンドへと拡大しています。こうした傾向は今後も続いていくものと思われます。従って、セーフティネットの守備範囲も、時代の流れに応じて見直していく必要があります。しかし、銀行は、預金を介した決済機能と信用創造機能という、非常に特別な機能を恒久的にもっている点にも留意すべきです。まさにこのことが、預金保険を投資家保護基金や保険契約者保護基金とは異なる独自の意味を持つ存在としています。こうした点を踏まえると、我々は、1980年代以降にシステミックに重要なペイメント・システムに対して実効的な諸原則の適用を促進してきたBIS支払・決済システム委員会(CPSS)の対応を学んでいくべきです。預金保険制度の設計にあたっては、今述べた諸要素を考慮していくことが求められています。


最後に、第三の点として、セーフティネットは平時、危機時のいずれにあっても金融機関の破綻に対処する必要があります。故キンドルバーガー教授が金融危機の歴史に関する有名な書物で述べたように、危機は根絶やしにならない多年草(hardy perennial)のように繰り返すからです。セーフティネットの理念や形態および財源は、平時と危機時で異なるべきだという考え方がある一方、同一ないしは少なくとも連続的であるべきだという考え方もあります。日本では、後者のアプローチを採用し、包括的なセーフティネットの枠組みを構築しましたが、このことが危機時にも迅速かつ効果的に機能し、我が国の金融システムの安定を確かなものにしていると確信しています。


(むすび)

今回のコンファレンスは、各国・地域が採った政策対応や出口に向けた取り組みについて経験を共有し、その教訓を学ぶよい機会であると思います。「全額保護から定額保護への移行」と題した本日の最初のセッションでは、本年末までに預金の全額保護から定額保護に移行する国・地域からのプレゼンテーションなどが行われます。このような意見交換の場を通じて、各国・地域の預金保険機関の連携が深まることを祈念しております。


ご静聴ありがとうございました。

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