3 米国におけるSPE戦略

連邦預金保険公社(以下「FDIC」という)はドッド=フランク法(Dodd-Frank Wall Street Reform and Consumer Protection Act、以下「DF法」という)第2編に基づく破綻処理戦略としてSPE14を開発し、その概要を、英国の中央銀行であるイングランド銀行(Bank of England、以下「BOE」という)との共同文書(2012年12月)15により公表した。さらに、2013年12月にはSPE戦略をより詳細に説明した「The Single Point of Entry Strategy」(以下「市中協議文書」という)16を公表し、意見を求める多数の具体的事項を明示しながら、2014年3月まで幅広く意見を募集した。以下では、市中協議文書で示された、米国におけるSPE戦略の内容を見ていく。

(1)  背景

2007年後半からの米国の金融危機において、G-SIFIsに対する、適切な破綻処理計画が不足していることが明らかとなった。

当時、FDICの管財人(レシーバー)の権限は連邦預金保険対象銀行・貯蓄金融機関に限定され、これらの親会社、子会社、及びノンバンク金融機関に対しては、公的資金による救済(ベイルアウト)か、倒産手続しか選択肢がなかった。

危機が収束するなか、2010年7月にDF法が成立した。同法第1編は、全ての対象金融会社17に対し、一般倒産法制の下で迅速かつ秩序立った破綻処理を行うための処理計画策定を求めている18。一方、同法第2編は、一般倒産法制による処理では米国における金融システムの安定に深刻な影響を及ぼすと考えられる場合に備えて、秩序ある破綻処理を実行するための権限(秩序立った清算権限(Orderly Liquidation Authority))を、FDICに与えている。第2編ではその政策目的を「FDICは米国の金融システムの安定性を維持し、モラル・ハザードを最小化し、市場の規律を促進し、所有者や経営者の責任を問いながら、対象金融会社の破綻処理を行う。この際、米国納税者の負担なく、債権者及び株主が法定順位に基づき、破綻金融会社の損失を負担しなければならない。」と定めている。

DF法は具体的な破綻処理方法は示してはいない。FDICはDF法に基づく破綻処理戦略の検討過程において、解決すべき課題として主に以下の点を認識するに至った。

  • 破綻会社は複数法域間でグローバルに業務展開しているため、破綻法制手続の競合により重要な業務の継続性に不確実性をもたらすリスク。
  • 国際協調が整わない場合、資産のリングフェンス(囲い込み)等により、金融の不安定化、フランチャイズ・バリューの毀損、市場の不確実性を招くリスク。
  • 相互関連性がある子会社等から提供される業務サービスの分断や、支払・清算機能へのアクセス喪失のリスク。
  • 取引相手の行動が破綻会社に業務上の困難をもたらし、市場のシステミックな混乱と米国の金融の不安定化を招くリスク。
  • 追加証拠金の要請、資金取引の停止や代替的資金調達手段へのアクセス喪失等により重要業務の継続に必要な流動性が不足するリスク。

(2) SPE戦略の概要

米国のG-SIFIsは一般に最上位に位置する持株会社の下に何百何千という子会社を持つという組織形態を有する。子会社は国、法域を超えて広がり、資金やサポート・サービスを共有する等相互に結びついている。このように統合された構造ゆえ、グループ全体の価値毀損や金融システムを介しての悪影響の伝播の可能性を回避しながら、秩序ある破綻処理をそのグループの一部に対し行うことは困難である。また、最上位持株会社が株式等により資金を調達し、その子会社に対し、資本や貸付金として資金を供給している。

FDICは、破綻処理にあたって、最上位持株会社の株主・債権者に損失を負担させること等により市場規律を促進する一方で、子会社の行っている重要な業務等を継続することにより金融システムの安定を維持することを目指している。

こうした中、FDICはDF法第2編の権限行使時の戦略として以下のようなSPE戦略を検討している。

FDICは持株会社についてのみレシーバーに任命され、子会社は、業務を継続する。
FDICはブリッジ金融会社を設立し、破綻した持株会社(以下「破綻HD」という)の全資産(主として子会社に対する出資と貸付け)と一部の負債19をブリッジ金融会社に移転する。
経営破綻に責任がある経営幹部は退任させる。ブリッジ金融会社は、新たに選任された経営陣の下で、破綻HDの持株会社としての機能を承継し、金融システムにとって重要な子会社の業務は継続・維持される。
損失の負担は、レシーバーの管理下(以下「レシーバーシップ」という)に残された破綻HDの株主、無担保債権者に割り当てられる。損失負担後に残った無担保債権は、ブリッジ金融会社から転換した新持株会社(以下「NewCo」という)が発行する証券等との交換(以下「債権と証券の交換」という)により弁済される。これにより、NewCoは十分な自己資本を有する。

次節以降、より具体的な破綻処理手続の内容について説明する。

【図1 米国のSPE戦略の全体イメージ図】

FDIC市中協議文書に基づき、筆者が作成した『米国SPE戦略の全体イメージ図』 詳細な情報については、以下にお問合せください。 預金保険機構 総務部 広報・情報管理室 電話:03-3212-6140

(出所)筆者作成

(3) ブリッジ金融会社の組織と業務

連邦準備制度理事会(以下「FRB」という)とFDICは、DF法第2編の適用が必要と判断した場合、財務長官に対し、書面で適用を勧告する。財務長官は大統領と協議の上、適用の可否を判断し20、適用条件を満たすと決定されるとFDICは破綻HDのレシーバーに任命される。

FDICはブリッジ金融会社を設立し、事前に審査されていた候補者の中から後継者として、取締役を任命し、最高経営責任者等を指名する。その後、ブリッジ金融会社と「当初業務契約書(initial operating agreement)」21を締結する。

FDICはブリッジ金融会社の企業統治に関するハイレベルな重要事項を管理し、日常業務はブリッジ金融会社の役職者等22による管理下でなされる。

(4) ブリッジ金融会社の資金調達

ブリッジ金融会社はレシーバーシップから破綻HDの全資産を承継する一方、無担保債務はレシーバーシップに残されるため、非常に強固なバランスシート構成を持つものとなり、市場からの資金調達が可能と考えられる。しかし、民間資金が直ちに調達できない場合には、一時的に、Orderly Liquidation Fund(秩序立った清算基金、以下「OLF」という)による流動性供給が行われる23,24

OLFによるブリッジ金融会社への貸付けは、ブリッジ金融会社及び子会社の資産を担保として行われ、市場での資金調達が可能となった段階で速やかに返済される。ブリッジ金融会社や子会社の資産売却によってもOLFから財務省への返済ができない場合には25、FDICは対象金融会社26にそのリスクに応じた負担金を課すことによってこれを返済することとされており、納税者負担が生じることはない。

破綻処理開始時のOLF借入限度額(Maximum Obligation Limitation)は、破綻HDの直近連結総資産の10%相当額とされる。また、OLF借入期間が30日間を超えるか、又は借入限度額を超える場合、FDICはOLF借入の強制的返済計画を策定しなければならない。ブリッジ金融会社の予備的資産評価が完了し、かつ、強制的返済計画を策定した後には、OLF借入限度額は、返済に充当可能な連結資産の公正価値の90%に変更される。

(5) 債権確定

FDICはレシーバーシップに残された負債、すなわち破綻HDに対する債権の確定手続を行う。優先順位は法定優先順位27に従い、また、手続も倒産法制と同様のものである28

以下の債務はブリッジ金融会社に移転される対象となり得る 。

  • ブリッジ金融会社の業務を維持し、システミック・リスク を緩和するため必要な特定の負債、例えばブリッジ金融会社の日々の業務継続に不可欠なサービス提供者に対する債務29
  • 担保が全額設定されている債務(これを、担保となっている資産とあわせてブリッジ金融会社に移転しても、レシーバーシップ資産のネット価値を減じるものではなく、また、担保の早急な処分によるシステミック・リスクの影響を回避できる)

ブリッジ金融会社に移された債務に関する支払は、通常通りに行われる。

原則としてFDICはレシーバーシップ内の同順位債務は同等に扱うこととされているが、以下の条件下で、債権者間の平等を損なうレシーバーシップからブリッジ金融会社への債務の移転が認められる。

  • レシーバーシップ内に残された債務に係る債権者の利益が最大化されること
  • ブリッジ金融会社の業務に必要であること

債権者間の平等を損なうことについて、債権者の同意は不要であるが、FDICがレシーバーに任命されることなく、連邦破産法第7章その他の制度で清算された場合の受取額以上を、全債権者が受け取るものでなければならない。FDICは、債権者平等を損なう取扱いは非常に限定的な場面のみ適用されると見込んでおり、また、裁量の範囲を、規則により、明確に限定している30

(6)  ブリッジ金融会社の終了

FDICがブリッジ金融会社による事業再編計画を承認し、かつ、ブリッジ金融会社の後継となるNewCoが自己資本比率規制を満たすことが明らかになると、ブリッジ金融会社は終了し、NewCoへの転換が行われる。

その際、レシーバーシップに残された負債に係る債権者は、弁済として以下の手順による債権と証券の交換により発行された証券を受け取る。

ブリッジ金融会社の評価が行われる。
評価結果に基づき、ブリッジ金融会社を承継するNewCoに対する債権、NewCoの株式、場合によってはワラントやオプションといったコンティンジェント証券(contingent securities)がNewCoからレシーバーシップに対し、新たに発行される。
レシーバーはこれら株式・証券等を破綻HDに対する債権者の債権と交換する。

債権と証券の交換は一般の倒産手続でも行われることがあるが、これによって、資産を処分することなく、債権者に対する財産価値の分配を行うことができる。

①の評価は、ブリッジ金融会社が選任、FDICが承認した投資銀行や会計士等の独立した専門家により行われる。さらにFDICの専門家が再調査し、公正性に関する意見を提出し、FDICはブリッジ金融会社の評価を承認する。

評価業務には、破綻金融会社において破綻前に使われていたモデルの見直し・テストの他、全資産とビジネスラインの価値計算も含まれる。評価は、ブリッジ金融会社及びレシーバーシップ内の破綻HDに生じた損失額を明らかにし、ブリッジ金融会社の資本、レバレッジ比率を確定する基礎を提供する。また、他の適用される報告、開示義務の他に、取引所における発行済証券の登録や登録の条件付適用除外などの、証券取引委員会(Securities and Exchange Commission、以下「SEC」という)の規制を満たすために利用される。

評価の過程では、資産の性質、資産価値に係る市場の不確実性があるため、価値が一定の範囲として示されることが予想される。FDICは、そのコンサルタントやアドバイザーとともに、その一定範囲内において適正価値を定める。合意された価値よりも、市場における企業価値の評価が高かった場合、債権を毀損された債権者が価値を回復できるよう、NewCoの株式やその他の債権を購入することができるオプションやワラント等が発行される。こうした条件付証券には、限定された権利行使期間と、過小評価が生じた場合に価値の公正な回復が行われるようなオプション価格が設定される。

ブリッジ金融会社は、独立した適格民間会計事務所が一般会計原則やSECの基準に従い作成した監査済財務諸表を公表する。債権と証券の交換後のNewCoには連邦破産法第11章(チャプター11)適用時の新会社に一般的に適用されるものと同様、フレッシュ・スタート・モデル31による会計基準が適用される。

評価と監査プロセスにより、NewCoが債権者への弁済の代わりに発行する劣後債、転換社債や普通株式を含む金融商品の価値が定められる。

債権と証券の交換により債権者への弁済が行われ、資本規制を含む法令上の要請を満たしたとき、ブリッジ金融会社の設立定款は失効し、ブリッジ金融会社は1つ又は複数の州法に基づく(State-Chartered)民間会社へ転換される。

これに先立ち、ブリッジ金融会社の取締役・経営陣は、新たな会社を一般倒産法制の下で破綻処理可能なものとするための事業再編計画を作成しなければならない。

FDICは破綻HDが公的管理下にある期間を限定的なものとすることを目指し、6ヶ月から9ヶ月で債権と証券の交換を行い得る状況としたいと考えている。

【図2 DF法第2編による破綻処理のタイムライン】

FDIC市中協議文書中の図を筆者が訳した『DF法第2編による破綻処理タイムライン図』 詳細な情報については、以下にお問合せください。 預金保険機構 総務部 広報・情報管理室 電話:03-3212-6140

(出所) FDIC市中協議文書より筆者訳


  1. FDICは現在、略語として「SPOE」と表記しているが、この文書中においては便宜上、「SPE」との表記に統一する。
  2. A joint paper by the Federal Deposit Insurance Corporation and the Bank of England, Resolving Globally Active, Systemically Important, Financial Institutions, 10 December 2012
  3. Federal Register Vol. 78, No. 243, December 18, 2013
  4. 金融安定監督評議会(FSOC)が指定し、連邦準備制度理事会(FRB)が設定する高度なプルーデンス規制の対象となるFRBの監督に服するノンバンク金融会社及び連結総資産500億ドル以上の銀行持株会社。
  5. したがって、米国のG-SIFIsが作成している破綻処理計画では、DF法第2編に基づくSPEではなく、一般倒産法制の下で処理され、また後述するOLF(Orderly Liquidation Fund)による流動性供給も得られないものとされている。そのため、金融機関には、グループ構造の簡素化や流動性・業務継続性の確保が高いレベルで必要とされている。(FRB/FDIC 共同プレスリリース“Federal Deposit Insurance Corporation Agencies Provide Feedback on Second Round Resolution Plans of "First-Wave" Filers” August 5, 2014)
  6. 負債の移転は限定的(3. (5)債権確定を参照
  7. 適用決定後、財務長官は破綻HDの取締役会にFDICをレシーバーに任命する旨を通知する。当該取締役会が同意しない場合、財務長官はFDICをレシーバーに任命する命令の発出を裁判所に申請する。この場合、24時間以内に司法審査がなされる。
  8. 「当初業務契約書(initial operating agreement)」には以下の内容を含むものとされている。
    • 破綻HDを含む金融グループのリスク管理方針等の見直し、破綻原因の特定と再発防止計画の策定
    • 資産の投売りを回避し、回収の最大化を図る資産処分戦略を含む事業計画の策定・提出
    • 主要業務における破綻前の管理業務の見直しの完了
    • 監督当局が求める資本、流動性水準や、強制的返済条件(後述)に即した、資本、流動性、資金調達計画の策定
    • FDICが認めた会計、評価のコンサルタント等専門家を採用し、財務諸表監査を完了させ、債権と証券の交換に必要な評価(Valuation)の実行
    • 一般倒産法制で破綻処理しても米国金融システムの安定に悪影響が懸念されない会社となるようなブリッジ金融会社の事業再編計画(資産、業務、子会社の処分を含む)の準備
  9. 業務に必要なスキルや専門知識を維持するため、破綻HD従業員の多くをブリッジ金融会社において維持することを想定。また、子会社等のほとんどの従業員は影響を受けない。
  10. ただし、ブリッジ金融会社の資金調達は市場からの調達が優先される。このため、市場から行う資金調達の手数料や金利によるコストがOLFからの借入れコストより高くとも、通常の市場取引によって必要な流動性を確保することが優先される。
  11. 貸付けのほか、必要に応じ、FDICは、OLFから資金調達を行うことができるとの権限を裏付けとした保証を、ブリッジ金融会社及び子会社に対し付すことで、市場からの資金調達の円滑化を図ることも可能である。
  12. OLFによるブリッジ金融会社への貸付けの原資は、OLFが財務省から借り入れる。
  13. 連結総資産500億ドル以上の銀行持株会社を含む金融会社、FRB監督下のノンバンク金融会社
  14. 優先順位は以下のとおりである。
    • レシーバーの管理費用
    • 米国政府に帰属する資金
    • 一定の従業員報酬等債権
    • その他一般債権、シニア無担保債権
    • 劣後債権者債権
    • 役員・上級役職者の報酬請求権
    • 株主請求権
  15. レシーバーシップに残る負債に係る債権の届出期日を、レシーバー指名公表後、90日経過日以降の日に定め、180日以内に債権者を確定する。債権者は、FDICが不利な決定を行った場合、新たな司法決定(de novo judicial determination)を求めることができ、こうした申立てはFDICの却下決定通知から60日以内に行う必要がある。
  16. 倒産裁判所が倒産手続の間の債務者の運営に不可欠な物品・サービス等の提供者への支払を許可することと類似。
  17. FDICは株主、劣後債権者、長期(1年超の)無担保債権者に有利に働くような、同順位者間の異なった取扱いはしない旨、明言している。
  18. 設立日において、各会社資産が市場参加者間で移転されるであろう価格により、公正価値を算定する会計処理方法。

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