(1)名寄せに際しての預金者の扱い

金融機関に破綻等の保険事故(「保険事故の種類と保護の方式」参照)が生じた場合、預金保険機構は、実際に保護される預金等(付保預金、「保護される預金等の額」参照)に係る保険金の支払又はその払戻しを円滑に行うための業務を行います。

その前提として、預金保険機構は、破綻した金融機関から提出を受けた預金者等に係るデータ(預金者の(カナ)氏名、生(設立)年月日、住所(所在地)、口座番号、預金の種類、預金等の元本及び利息額等のデータ。以下、「預金者データ」といいます)に基づき、同一の預金者が破綻した金融機関に有する複数の預金口座等を集約、合算し、預金者ごとの付保預金の額を把握します。この作業を「名寄せ」といいます。

名寄せに際しての預金者の扱いは、次のとおりです。

イ. 個人の扱い

(原則)

1個人を1預金者とします。夫婦や親子も別々の預金者となります。

家族の名義を借用している預金(借名預金)等は、保護の対象外となります。

(個人事業主)

個人事業主の場合、事業用の預金等と事業用以外の預金等は、同一人の預金等となります。

(死亡した者)

死亡した者の預金等については、被相続人の死亡した時(相続開始の時)が金融機関の破綻日の前か後か、遺産分割協議の終了等により相続分が確定しているか否か、によって名寄せにおける取扱いは異なります。

<破綻前に被相続人が死亡した場合>

相続分が確定しているときは、被相続人の預金等は、相続人の預金等として相続分に応じて分割の上、各相続人の他の預金等と合算されます。
一方、相続分が未確定であるときは、各相続人自身の預金等のみで名寄せを行います。その後、遺産分割協議の終了等により相続分が確定した時点で、被相続人の預金等を含めた名寄せを改めて行います。

<破綻後に被相続人が死亡した場合>

被相続人の預金等として名寄せされます。

また、相続人のあることが明らかでないとき(民法第951条参照)は、相続財産の帰属が確定するまでは、独立して名寄せすることとなります(注)

(注) 金融機関が作成する預金者データにおいては、便宜上、死亡者個人の名義の預金等として管理する扱いとなります。

ロ. 法人の扱い

1法人を1預金者とします。

ハ. 権利能力なき社団・財団の扱い

(原則)

1社団・財団を1預金者とします。

権利能力なき社団」と認められる社団は、判例により、「団体としての組織を備え、多数決の原則が行われ、構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、その組織によって代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているものでなければならない」(最高裁昭39.10.15判決)とされています。

また、「権利能力なき社団の財産は、構成員に総有的に帰属するものであり、構成員は、当然には共有持分権又は分割請求権を有するものではない」(最高裁昭32.11.14判決)とされており、仮に社団の規約上に共有持分権や分割請求権が規定されている場合には、通常は「権利能力なき社団」には該当しないと考えられます。

他方、「権利能力なき財団」と認められる財団は、「個人財産から分離独立した基本財産を有し、かつ、その運営のための組織を有していること」(最高裁昭44.11.4判決)が必要とされています。

(規約との関係)

「権利能力なき社団・財団」となりうる社団・財団には、明文の規約が存在していることが一般的です。ただし、明文の規約が存在しなくても、団体としての主要な点が、慣行により不文の規約として確立していれば、「権利能力なき社団・財団」として認められる場合もあります。

(支部との関係)

通常、法人や「権利能力なき社団・財団」の本部と各支部は、同一の人格として1預金者となりますが、支部が「権利能力なき社団・財団」としての要件を満たし、本部から独立していれば、本部と区分して1預金者となる場合もあります。

(金融機関の判断)

法人でない団体が、「権利能力なき社団・財団」と認められるか、「任意団体」(下記参照)であるかについては、金融機関において、当該団体の規約等の内容及びその活動実態を確認し、「権利能力なき社団・財団」としての要件を満たしているか否かを判断することになります。

二. 任意団体の扱い

(原則)

法人及び「権利能力なき社団・財団」以外の団体を「任意団体」といいます。「任意団体」は、1預金者とはなりません。

(持分届出書の提出)

「任意団体」名義の預金等は、その各構成員の預金等として、持分に応じて分割されます。

すなわち、金融機関が破綻した場合には、「任意団体」の代表者に、団体の構成員に関するデータ(カナ氏名、生年月日、持分等)を持分届出書により提出することを求めます。これに基づき、「任意団体」の預金等は、構成員の預金等として持分に応じて分割され、構成員が当該金融機関に預金等を有している場合にはこれと合算されます。

様々な名義の預金等の扱い

1. 町内会

町内会については、地方自治法第260条の2(注)の認可を受けた場合や、組織の実態から判断して「権利能力なき社団」と認められる場合には、町内会自体が1預金者となり、町内会名義の預金等は町内会の預金等として名寄せされます。

一方、「任意団体」である町内会名義の預金等は、構成員の預金等として、持分に応じて分割された上で、各構成員の他の預金等と合算されます。

(注) 地方自治法第260条の2【地縁による団体】
町又は字の区域その他市町村内の一定の区域に住所を有する者の地縁に基づいて形成された団体は、地域的な共同活動のための不動産又は不動産に関する権利等を保有するため市町村長の認可を受けたときは、その規約に定める目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う。

2. 商工会

商工会については、商工会法第4条に基づき法人格を有しているため、商工会自体が1預金者となり、商工会名義の預金等は商工会の預金等として名寄せされます。

3. マンション管理組合

マンション管理組合については、登記等により、建物の区分所有等に関する法律第47条に基づき法人格を有する場合や、「権利能力なき社団・財団」と認められる場合には、1預金者となり、マンション管理組合名義の預金等はマンション管理組合の預金等として名寄せされます。

マンション管理組合は、法人格を有していなくても、団体としての組織を備え、構成員の変更にかかわらず団体が存続し、総会の決議に基づいて運営されるなど、「権利能力なき社団」と認められる場合が多いと考えられます。

一方、「任意団体」であるマンション管理組合名義の預金等は、構成員の預金等として、持分に応じて分割された上で、各構成員の他の預金等と合算されます。

マンション管理組合の規約に、「組合資産について構成員が共有持分権を有する」旨を明記した場合には、当該マンション管理組合は「権利能力なき社団」とは認められず、「任意団体」になると考えられます。

ホ. 地方公共団体等の扱い

(原則)

地方公共団体(注1)は、地方自治法第2条により法人格を有しているため、地方公共団体自体が1預金者となり、地方公共団体名義の預金等は地方公共団体の預金等として名寄せされます。

地方公共団体に属する機関(警察、消防、学校(注2)等)名義の預金等も、地方公共団体の預金等として名寄せされます。例えば、「A市」、「A市立B中学校」、「A市C消防署」各々名義の預金等が同一の金融機関にある場合には、いずれも「A市」の預金等として名寄せされます。

(注1) 地方公共団体には、都道府県、市町村、特別区、地方公共団体の組合、財産区及び地方開発事業団があります。
(注2) 公立学校(独立行政法人である公立学校を除きます)は、地方公共団体に属するため、公立学校が児童・生徒から徴収した給食費、教材費等を預金している場合には、公立学校が属する地方公共団体等の預金等として名寄せされます。

(地方公営企業)

地方公営企業法上の地方公営企業(鉄道、水道、ガス等)は、地方独立行政法人化されていなければ、会計上は独立していても地方公共団体に属するため、こうした企業名義の預金等も、地方公共団体の預金等として名寄せされます。

(外郭団体)

地方公共団体の外郭団体(土地開発公社、勤労福祉財団、公園緑化協会等)や地方独立行政法人(公立大学など)は、地方公共団体とは別に法人格を有するのが一般的です。これら団体等の名義の預金等は、当該団体等の預金等として名寄せされます。

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