(2)相殺

イ. 預金規定と相殺

預金者が破綻金融機関に対して借入金等を有している場合には、預金等の債権により借入金の債務を相殺できることがあります。

預金者が相殺を行うためには、民法及び預金規定・借入約定等に基づいて、預金者側から破綻金融機関に対して所定の手続をとって、相殺をする旨の意思を表示する必要があります。

一般的には、預金者が自らの債権(預金等)・債務(借入金)を確認の上、どの預金等とどの借入金とを相殺するのかを記載した書面に預金通帳・証書等を添え、これらを破綻金融機関に提出することとなりますが、個々のケースについては、関係する預金規定・借入約定等に従って行うこととなります。

預金者が相殺を行うことができる期間は、破綻金融機関がどのような倒産手続で処理されるかによって異なります。民事再生手続の場合には、相殺を行うことができるのは債権届出期間内に限定されます。一方、破産手続の場合には、具体的な期限は、ケースごとに異なります。

なお、倒産手続が開始された金融機関側から相殺を行うことは、配当によらない弁済(破産手続)ないし再生計画・更生計画によらない弁済(民事再生手続・会社更生手続)となるため、原則的に許されません。このため、破綻金融機関(金融整理管財人、破産管財人等)から相殺を行うことはありません。

ロ. 相殺できない場合

預金規定に「保険事故発生時における預金者からの相殺」に係る規定があっても、次のような場合には相殺できません。

相殺の対象となる借入金について、返済済みの場合
相殺の対象となる借入金について、借入約定等の特約により相殺が禁止されている場合
相殺の対象となる借入金が、金融機関の預金等の支払の停止を知った後に負担した債務である場合
相殺を行う預金等について、預金保険機構から保険金の支払を受けている場合、又は預金等債権の買取りにより預金保険機構に預金等債権を売渡している場合
民事再生手続において、債権届出期間が終了している場合

ハ. 相殺に用いる預金等に応じた受取額の違い

相殺は、付保預金、付保預金以外の預金等のいずれについても行うことができますが、どの預金等を相殺に用いるかにより、預金者の最終的な保険金等の受取額に差が生じることがあります。このため、どの預金を相殺の対象とするかは、個別の取引内容を勘案しながら、預金者自身で判断いただくことになります。

付保預金以外の預金等は、破綻金融機関の財産状況により一部カットされることがあるため、一般的には、付保預金以外の預金等がある場合は、相殺を行ったほうが、預金者にとって有利になる場合が多いと考えられます。

相殺の様々な形態

1. 満期未到来の定期預金等による相殺、弁済期未到来の住宅ローン等との相殺

相殺は、本来、預金等と借入金との双方に履行期が到来していなければできませんが、保険事故発生時には、預金規定の定めにより、期限(満期)未到来の定期預金等でも相殺ができるのが一般的です。

弁済期未到来の住宅ローン等については、債務者(預金者)の側から破綻金融機関に対して期限の利益を放棄する旨の意思表示を行えば、相殺が可能です。

2. 返済が滞っている借入金との相殺

借入金の返済が延滞している場合でも、相殺は可能です。
ただし、相殺に当たり、借入約定等に基づく利息や遅延損害金を請求されることがあり、その分は預金元利金から差し引かれることになります。

3. 満期前の割引手形に係る買戻し債務との相殺

銀行取引約定書等によって、預金者側に手形面記載の金額の買戻し債務を負担する旨が定められている場合(注)には、その定めにしたがって、自らの預金等債権と当該債務を相殺できます。

(注)

例えば、銀行取引約定書に「満期前の割引手形について私が前項(略)により相殺する場合には、私は手形面記載の金額の買戻債務を負担して相殺することができるものとします。ただし、貴行が他に再譲渡中の割引手形については相殺することができません。」と規定されていることがあります。

4. 保証債務との相殺

破綻金融機関から借入れを行っている人の債務の保証債務を負っている預金者は、自らの預金等債権と保証債務が対立している場合には、これらを相殺できます。

ただし、保証人は、自らの預金等と保証債務を相殺する場合には、以下の点に留意する必要があります。

保証債務との相殺は、借入金の返済期限に関係なく可能ですが、借入人の債務不履行などを原因とした破綻金融機関からの保証債務の履行請求によらず、保証人自らの判断で自らの預金と保証債務を相殺し、求償権を得ることになるため、事前に借入人の承諾を得ておくことが借入人とのトラブル防止につながります。
借入人も破綻金融機関に預金等を有しており、相殺の意思がある場合や、保証人が複数存在し、同様に相殺の意思がある場合には、どの相殺を優先させるか等について、借入人と保証人間、あるいは保証人同士で十分に話し合い、同意を得ておくことが当事者間のトラブル防止につながります。

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